AIに「このページを調べておいて」と頒めたら、自分の代わりにブラウザーを開いて、クリックして、必要な情報を集めてくる。そんな使い方が、この8月から現実のものになりました。

Anthropicは2026年8月26日、AIアシスタント「Claude」にWebを操作させる仕組みを大きく2つに整理しました。ひとつはブラウザー拡張機能「Claude in Chrome」の正式版提供、もうひとつは作業アプリ「Claude Cowork」への内蔵ブラウザー搭載です。

この記事では、何ができるようになったのか、どちらを選べばよいのか、そして使い始める前に知っておきたい安全の話を、やさしく整理していきます。

Claudeがブラウザーを操作する2つの道

今までも、ClaudeにWeb作業を任せる方法はありました。ただしそれは「Chromeに拡張機能を入れて、自分のブラウザーを使わせる」という、たったひとつの道しかありませんでした。

これには、使ってみると分かる2つの不都合がありました。

ひとつは、Claudeが作業している間、自分はそのブラウザーを使えないということ。画面の中でカーソルが勝手に動き回るのを、ただ見守るしかありません。「任せておいて自分は別のことをする」という、一番やりたかった使い方ができなかったのです。

もうひとつは、もっと感覚的なものです。ログイン済みのメール、ネットバンキング、保存されたパスワード、何年分もの閲覧履歴。その全部が入った自分のブラウザーを、AIに触らせることへの抵抗感です。

今回の発表は、この2つを同時に解消するものでした。

今回変わった3つのこと

発表の中身を、大きく3つに分けて見ていきます。

① Coworkが自分専用のブラウザーを持った

Claudeのデスクトップアプリに、Claude専用のブラウザーが内蔵されました。インストール作業は一切必要ありません。サイドパネルの中でページを開き、読み、クリックし、文字を入力し、フォームを送信するところまでを、Claudeが自分のブラウザーで行います。

② Claude in Chromeが正式版になった

限られた人だけが試せる実験的な機能だった「Claude in Chrome」が、Pro・Max・Team・Enterpriseの全有料プランで使えるようになりました。

③ いちいち確認を取らなくなった

これが、実は一番使い心地に響く変化かもしれません。安全だと判断した操作については、一つひとつ「これをしてもいいですか?」と聞かずに、Claudeが自分で進められるようになりました。

内蔵ブラウザーとChrome拡張の使い分け

選択肢が増えると、今度は「で、どっちを使えばいいの?」という迷いが生まれます。Anthropic自身が示している目安を、表にしてみました。

項目Claude in Chrome(拡張機能)Cowork内蔵ブラウザー
使うブラウザー自分の個人用ChromeClaude専用の独立環境
ログイン状態サインイン済みアカウントをそのまま使う別管理。必要なものを都度サインイン
向いている作業今開いているページの処理、受信トレイの整理調べ物、資料収集、書類の回収などの丸投げ
作業中の自分ブラウザーをClaudeと共有する別の仕事を続けられる
インストールChrome拡張機能が必要不要(アプリに内蔵)

考え方はシンプルです。「すでにログインしている自分のアカウント」が必要な作業ならChrome拡張、そうでない調べ物や収集なら内蔵ブラウザー。これでほぼ判断できます。

なお、すでにClaude in Chromeを使っている方はそのままの設定が維持されます。これから使い始める方は内蔵ブラウザーが初期設定になり、いつでも「設定>Cowork」から切り替えられます。

内蔵ブラウザーの中身

内蔵ブラウザーで最も安心できるのは、個人用のブラウザーと完全に切り離されているという点です。パスワードも、ブックマークも、閲覧履歴も共有されません。

もちろん、ログインが必要なサイトを使いたい場面もあります。そのためにログイン情報のインポートにも対応していますが、ここにも安全の線引きがあります。

  • インポート対応ブラウザーは、WindowsはFirefox、MacはMicrosoft Edge・Google Chrome・Firefox、LinuxはFirefox
  • 銀行・メール・SSO関連のサイトは、自分で明示的に含めない限り対象外
  • クラウドで動くセッションなら、アプリを閉じても作業が続く

自動で何もかもを取り込むのではなく、必要なものを自分で選んで渡す形になっている、と考えると分かりやすいでしょう。

「都度確認」から「自動で進む」へ

今回の変更で、使っていて一番差を感じるのはここだと思われます。

これまでは、クリックひとつごとに「進めていいですか」と聞かれ、そのたびにボタンを押す必要がありました。安全ではありますが、正直なところ「これなら自分でやった方が早い」となりがちでした。

新しい仕様では、安全と判断された操作は自動で進み、判断が必要な場面だけ手を止めて聞いてくる形になりました。これはプログラマー向けのClaude Codeで先に採用されていた考え方を、ブラウザーにも持ち込んだものです。

ただし、全部が自動になったわけではありません。

  • 実行前に安全性をチェックする仕組みが、その操作が元の頒みごとに沿っているかを検証する
  • 購入や金融取引などの重大な操作は、引き続き必ず確認を求められる
  • 心配な人は、設定で従来の「都度確認」に戻せる

便利さを取るか、見守る安心を取るか。その選択は、使う側に残されています。

正式版になるまで1年かかった理由

このニュースを「やっと出たのか」と感じた方もいるかもしれません。実際、この機能は非常に慎重な道のりをたどっています。

時期出来事
2025年8月リサーチプレビューとして公開。対象はわずか1,000人のテスターのみ
2025年11月安全対策の研究を公開し、ベータへ格上げ。上位プラン全体に拡大
2026年8月全有料プランで一般提供。同日、Coworkに内蔵ブラウザーを搭載

1,000人のテストから全有料プランへと広げるまでに、丁度一年。この慢さには、はっきりした理由があります。

安全性をどう見るか

メーカーが示す数字

ブラウザーをAIに操作させるときの最大のリスクは、プロンプトインジェクションと呼ばれる攻撃です。

ややこしい名前ですが、仕組みは単純です。Webページやメールの中に、人間の目には見えない形で命令文を埋め込んでおき、それを読んだAIに実行させてしまうというものです。例えるなら、使いに出した相手に、途中で見知らぬ人が別のメモを手渡しするようなものです。

Anthropicはこの対策を三層で行っています。モデル自体に耐性を学習させること、入ってくる内容を機械的に検査すること、そして人間の研究者に攻撃を試みさせること。

同社が公表している数字は次の通りです。

条件攻撃の成功率
対策を適用しない場合(従来モデル)17.6%
対策を適用しない場合(最新モデル)3.8%
検査の仕組みを適用した場合0~0.3%

数字だけ見れば、かなり堅くなってきたことが分かります。

外部研究が示すもうひとつの現実

ただ、このニュースと並べて知っておいてほしい事実があります。

2026年8月、セキュリティ企業Zenity Labsが、世界最大級のセキュリティ会議Black Hatで、「PleaseFix」と名付けた攻撃手法を発表しました。これはClaudeだけでなく、Gemini、Perplexity、ChatGPT、Copilotといった主要なAIブラウザーに共通する問題とされています。

実証された内容は、正直なところ背筋が寒くなるものでした。悪意のあるメールが1通届いている状態で、ユーザーが「メールを要約して」と頒むだけで連鎖が始まり、メールの内容が外部に流出し、クラウド上のファイルが見知らぬ相手に共有され、別サービスのアカウントまで奴っ取られる――というものです。

しかも、「実行前に確認する」安全モードでも、この連鎖は成立したと報告されています。研究チームは2025年末から2026年初にかけて各社に報告しましたが、報道時点では未修正です。OpenAIは「エージェントブラウザーの中核機能そのものを利用するため、簡単な修正はない」と回答しています。

つまり、メーカー発表の「0%」は自社の検査基準での数値であり、別の経路からのリスクはまだ残っていると考えるのが現実的でしょう。Anthropicの製品ページ自体も、銀行・医療記録・機密情報への使用を推奨していないことを明記しています。

新しい便利な道具には、必ずこうした影の部分があります。怖がって使わないのではなく、境界線を知った上で使う。それが一番賢い付き合い方ではないでしょうか。

使うときの5つのルール

ここまでを踏まえて、安心して使うための目安をまとめます。

  1. 銀行・証券・医療・行政手続きのサイトでは使わない。これはメーカー自身が推奨していない領域です
  2. 内蔵ブラウザーへのログイン情報の取り込みは、本当に必要なサイトだけにとどめる
  3. メールやSNSの内容を読ませるときは、その中身が命令になり得ると意識しておく
  4. 大事な作業の間は、自動承認を切って都度確認に戻す
  5. 仕事で使う場合は、管理者がアクセス先をリストで絞っておく

他社のAIブラウザーとの違い

実は今、各社が一斉に「AIにブラウザーを操作させる」分野に飛び込んでいます。

サービス特徴
Perplexity Comet2025年10月から無料。パソコンもスマホも対応した完全自動型
ChatGPT AtlasOpenAIの専用ブラウザー。自動操作は有料プランが必要
Gemini in Chrome2026年1月から自動実行機能を上位プラン向けに提供
Edge CopilotEdgeに組み込まれ無料。簡単な多段階作業に対応

この中でAnthropicの選択は少し異色です。専用ブラウザーという製品を一から作らなかったのです。代わりに、作業アプリの中に「道具のひとつ」としてブラウザーを置きました。

ブラウザーそのものを乗っ取るのではなく、「仕事が終わる場所」になろうとする。この違いは、今後の各社の動きを見る上でのひとつの視点になりそうです。

まとめ

今回の発表をひとことで言うなら、「AIにWeb作業を任せる」ということのハードルが、一段下がったということです。

拡張機能を入れる必要も、自分のブラウザーを明け渡す必要もなくなりました。デスクトップアプリを最新にしておけば、Claudeが自分のブラウザーを持って調べ物をしてくれる。その間、こちらは別のことに手をつけられる。

一方で、便利さとリスクがひとつのセットであることも変わりません。メーカーの対策は確実に進んでいますが、外部の研究者は別の抜け道を見つけ続けています。

だから、線引きはとてもシンプルでいいと思います。調べ物や情報収集はどんどん任せる。お金と健康に直接関わる手続きは、自分の手でやる」。この一線だけ守っておけば、新しい道具の良いところを安心して受け取れるはずです。