動画編集ソフト「DaVinci Resolve(ダヴィンチ・リゾルブ)」が、Claude や ChatGPT から直接操作できるようになりました。「この長い動画から3分のハイライトを作って」とお願いするだけで、ソフトが実際に動き出す仕組みです。

これは動画編集をする人だけの話題に見えるかもしれません。でも実際には、AI との付き合い方そのものが変わりつつあることを示す出来事ではないでしょうか。この記事では、何が起きたのか、そして私たちの暮らしにどう関わってくるのかを、やさしく整理してみます。

話しかけるだけでソフトが動き出す

2026年9月8日、オーストラリアの Blackmagic Design 社が、動画編集ソフトの最新版「DaVinci Resolve 21.1」を公開しました。このソフトはハリウッド映画の制作現場でも使われている本格的なものですが、基本機能を無料で使えることでも知られています。

今回の更新で最も注目を集めたのが、Claude・Claude Code・ChatGPT Codex といった AI アシスタントとの連携機能です。

Blackmagic Design 社が実際に示した例が分かりやすいので、紹介します。AI に対して、次のようなひとつのお願いをするだけです。

  1. 長い動画を読み込む
  2. 3分間のハイライト版にまとめる
  3. 1秒未満の短すぎる場面を削除する
  4. 見せる人に送るための形式で書き出す

これまでなら、メニューを順に探し、クリップを一つずつ選び、書き出しの設定を何度も確認して……という地道な作業が必要でした。それを普段の言葉で伝えるだけで済むようになった、ということです。

Blackmagic Design 社のグラント・ペティCEOは、次のようにコメントしています。

「AIアシスタント対応により、ハイライト編集の作成、素材の整理、まとめての書き出しといった反復作業を、Claude や ChatGPT に任せられるようになりました。お客様はクリエイティブな判断に集中できます」

これまでのAI機能との違い

「動画編集ソフトのAI機能」と聞いて、自動で字幕をつける機能や、人物を自動で切り抜く機能を思い浮かべる方も多いかもしれません。ですが、今回のものはそれとは質が違います。

これまでのAI機能今回のAI連携
位置づけソフトの中に組み込まれた道具外部のAIがソフトを操作する
使い方ボタンを押して使う普段の言葉で頸む
できること決められたひとつの作業複数の作業を繋げて一気に
例えるなら便利な道具を渡される作業を手伝ってくれる人が来る

これまでのAIは、いわば「よく切れる包丁」のような存在でした。便利ですが、使うのは自分です。今回の変化は、その包丁を使って下ごしらえまでやってくれる人が台所に立ってくれるようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。

もう一つ大事なのは、普段使っている AI そのものが使える点です。メールの下書きを手伝ってもらっているのと同じ Claude に、そのまま動画の作業を頸めます。ソフトごとに別のAIを覚え直す必要がありません。

この仕組みを支える「MCP」という共通ルール

この連携を可能にしているのが、**MCP(エムシーピー)**と呼ばれる仕組みです。日本語にすると「モデル・コンテキスト・プロトコル」というやや難しい名前ですが、中身はとても単純です。

AI とソフトが会話するための共通の言葉を決めておこう、という取り決め。それだけです。

これまでは、AI とソフトを繋ごうとすると、ソフトの数だけ別々の仕組みを作る必要がありました。コンセントの形がバラバラだった時代の家電のようなものです。MCP はその形を揃えようとする動きで、対応したソフトなら、どのAIからでも同じように使えることを目指しています。

2026年に入ってから、この対応は一気に広がりました。

時期動き
2026年4月Adobe が Photoshop・Illustrator・Lightroom など50以上の機能を公開
2026年内デザインツールの Figma、3DCGの Blender などが順次対応
2026年8月Adobe が本格対応の方針を正式発表
2026年9月DaVinci Resolve が実際に搭載して公開

Adobe が「これから対応します」と発表している段階で、Blackmagic Design 社は先に形にして出してきた、というのが今回の構図です。

AIに頸める作業の範囲

実際にどのぐらいのことができるのか、主なものを並べてみます。

領域頸める内容の例
素材の整理撮影日や場所ごとに分けて、分かりやすい名前をつける
下ごしらえ長い映像から使えそうな場面を抜き出して並べる
不要部分の削除短すぎるカットや重複した場面を取り除く
色の調整決めてある色味の設定を全体に適用する
音の整理全体の音量を揃えて聞きやすくする
書き出し複数の形式・サイズでまとめて出力する

見ていただくと分かる通り、どれも手間はかかるけれど、センスは問われない作業ばかりです。ここがこの機能の性格をよく表しています。

一方で、「どの場面を見せるか」「どういう順番で見せるか」といった、作品の良し悪しを決める部分は依然として人間の仕事です。複数の専門メディアがそろって「これは編集者を置き換えるものではない」と指摘しているのは、そのためです。

使うために必要なもの

興味を持たれた方のために、必要なものを整理しておきます。

項目内容
ソフトDaVinci Resolve Studio 21.1(有料版・51,980円)
支払い方式買い切り。月額課金ではありません
AI側Claude または ChatGPT の有料プラン(月額3,000円前後から)
設定ソフトのメニューから接続を有効にするだけ
追加の契約不要。API などの別契約はいりません

気になる方が多いのが費用面だと思いますが、AI の契約を新たに増やす必要はありません。すでに Claude や ChatGPT の有料プランを使っているなら、その利用枠のなかで収まります。

ただし、長い動画を扱うと AI の利用量は増えやすくなります。プランごとの上限に早く達してしまう可能性は覚えておいたほうがよさそうです。

無料版で起きたもう一つの変化

明るい話題の陰で、もう一つ変更がありました。こちらはあまり報じられていません。

今回の更新で、無料版から自動化用の仕組み(Python スクリプティング)が有料版へ移されました。つまり無料版の利用者にとっては、新機能が使えないだけでなく、これまで使えていた機能が減ったことになります。

Blackmagic Design 社は、この理由をリリースノートに率直に書いています。この仕組みが有料版の機能を無料版で再現するために使われており、開発体制を維持するには有料版の売上が必要だ、という説明です。あわせて「月額課金は一般的になったが、支払いを止めると自分の作品が取り出せなくなる。それとは違う選択肢を用意したい」という考えも示しています。

買い切りの価格を維持するための線引き、ということなのでしょう。賛否は分かれるところですが、理由を隠さずに説明した姿勢を評価する声も出ています。

この流れが動画以外にも広がる理由

ここが、動画編集をしない方にも関係してくる部分です。

今回の出来事の本質は、「動画編集が楽になった」ことではありません。AI が、パソコンの中のソフトを直接動かせるようになったことです。

この共通ルールに対応するソフトは、この半年で急速に増えました。写真編集、デザイン、資料作成……と広がっており、この先も対応ソフトは増えていくと見られます。いずれは写真の整理や家計の管理、旅行の記録づくりといった、もっと身近な作業にも広がっていくかもしれません。

これまでの AI は、聞けば答えてくれる相談相手でした。これからは、頸めば手を動かしてくれる存在に変わっていく。その切り替わり目に、今私たちはいるのだと思います。

今のところの現実的な向き合い方

とはいえ、すぐに飛びつく必要はなさそうです。落ち着いて見ておきたい点がいくつかあります。

同じお願いをしても、毎回同じ結果にはなりません。これは AI 全般に共通する性質です。国内で実際に試した方からは、「毎回同じ手順で進めたい定型作業を丸投げするのには向いていない。むしろ試行錯誤が必要な作業のほうが向いている」という声が上がっています。

また、現時点ではできない操作も残っています。人に見せるものを作る以上、最後に自分の目で確かめる工程は省けないと考えておいたほうが安全です。

もし興味があるなら、まずは無料版でソフトの操作に慣れてみるのが良さそうです。このソフトは多機能な分、覚えることも多めです。手作業でやってみて「ここが手間だな」と実感できてからでも、有料版の検討は遅くありません。

まとめ

DaVinci Resolve 21.1 で起きたのは、AI が助言する側から、実際に作業する側へ回ったという変化です。長い映像の下ごしらえや素材の整理といった、手間はかかるけれど創造的ではない作業を、普段の言葉で頸めるようになりました。

必要なのは有料版のソフトと、すでに使っている AI の有料プランだけで、別途の契約はいりません。一方で、何を見せるかを決める部分は人間の仕事のままです。

この動きは動画編集にとどまらず、さまざまなソフトに広がりつつあります。今すぐ何かを変える必要はないとしても、「AI に作業を頸める」という選択肢が現実になりつつあることは、覚えておいて損はないはずです。